秘密の地図を描こう
27
いったい、何故、自分はここにいるのだろうか。
「死ぬはずだったのだが……」
あのときに、とため息混じりに呟く。その声が自分のものとは思えなのは、あれから三年近く経っているからだろうか。
「本当に、君は何を考えているのかね?」
言葉とともに視線を移動させる。
「……ごめんなさい」
即座に、謝罪の言葉が返ってきた。
「でも、もう一度、あなたと話をしてみたかったんです」
小さいがしっかりとした声で彼はそう続ける。
「私と?」
しかし、その言葉の意味をすぐに飲み込むことができない。いったい、どうしてそんな考えになったと言うのだろうか。
「はい」
それなのに、キラの口から出たのは肯定の言葉だけだ。
「あんな場所ではなく、違う場所で……」
あそこでは感情に支配されてしまって、大切なことを間違えてしまいそうだったから。彼はそう続ける。
「それに……貴方たちに未来を与えること。それが母の望みだったから」
彼女たちに命をもらった自分がそれをかなえるのは当然だろう。彼はそうも言い切る。
「私の意思は無視しても、かね?」
ため息とともに言葉を口にした。
「それでも、です」
ためらうことなく、キラは自分の意志を告げる。
「私たちも、それを望んだからね」
さらにギルバートが口を挟んできた。
「あのままあの世に行かれるのは不本意だよ」
だから、文句があるのであれば自分達にも言うのだね……と彼は続ける。
「何よりも、レイが一番喜んでいる」
いろいろな意味で、と言葉を重ねられてラウはため息をつく。
「全く……君までもがキラ君の味方とは」
「私たちの願いを叶えてくれたのだ。当然のことだろう?」
何も言わずに消えようとした人間とは違う、とギルバートは言い返す。
「……そういうことにしておこう」
言葉とともにラウは体から力を抜いた。そのままベッドへと身を沈める。
「どちらにしろ、今、私が生きていることは事実。ならば、現実として受け入れなければいけないだろう」
もっとも、どれだけ生きられるかは知らないが……と続けた。
「そうだね」
何かを考え込むような口調でギルバートが言葉を綴り出す。
「正確なところはこれから検査しなければわからないが……あと三十年は十分生きられると思うよ」
「……三十年……」
てっきり、あと数日と言われると思っていたのに、予想以上に長い時間を言われて呆然としてしまう。
「さすがはヴィア・ヒビキ……と言ったところか」
もっとも、とギルバートはため息をつく。
「そのために、キラ君はオーブに戻れなくなったがね」
キラの遺伝子がクローンの延命にも役立つ。その事実をブルーコスモスもかぎつけているらしい。
不幸中の幸いと言えるのは、それがどのような内容なのか。詳しいデーターが漏れていないことだろうか。
「どちらにしろ、キラ君の身の安全を確保する必要がある、と言うことだよ」
それは自分達の責任だろう。ギルバートはさらにそう言葉を重ねた。
「僕は……」
「私たちがそうしたいのだよ。だから、君が気にすることではない」
微笑みとともに彼はキラの言葉を封じる。
「だから、大人に任せておきなさい」
相変わらずだな、と思いながらラウはギルバートを見つめていた。
同時に、これからどうするべきか。
死ぬと思っていたからこそ、あんな無茶もできたのだ。
しかし、そんな自分に新たな時間が与えられた。それをどう使っていいのかがわからない。
「とりあえず、ゆっくりと考えてみるか」
時間はあるのだから、とため息とともに呟いた。